日本人なら誰もが知っている『じゃんけん』ですが、その始まりについて考えたことはありますか?
じゃんけんはいつ頃から存在し、どこを発祥に、そしてどのように伝わってきたのか?
そして、この「じゃんけん」という呼び名の由来は何なのか?
など、少し考えてみただけでも、「じゃんけん」というもののルーツについてたくさんの疑問が浮かんできます。
- じゃんけんの名前の由来は?
- じゃんけんはいつから始まった遊びなのか?
- じゃんけんような遊びは他に種類があるのか?
この記事では、そういった疑問点への回答を調査しました。
『じゃんけん』とは
日本中で知らない人は存在しないのでしょうが、まずは始めに、「じゃんけん」について改めて説明しておきます。
じゃけんのルールとは、”グー”(石)、”チョキ”(はさみ)、”パー”(紙)の3つの手の形に対して、それぞれ強弱関係があり、
- グーはチョキに勝つがパーに負ける
- チョキはパーに勝つがグーに負ける
- パーはグー勝つがチョキに負ける
このような関係を、「三すくみ」といいます。
図.じゃんけんの三すくみ関係と手の形
この、じゃんけんの三すくみのような関係性に類似した手の形による遊びは、それ以前から「拳遊び」として多数存在(※後述の「虫拳」、「本拳」を参照)しており、「じゃんけん」がその発祥となったというわけではありません。
ちなみに、「三すくみ」とは、中国古代の思想書『関尹子』の三極編にある以下のような記述から、三者が互いに牽制し合って、それぞれが自由に動けない状態を表す意味で使われるようになりました。
蛇はなめくじをおそれ、なめくじは蛙をおそれ、蛙は蛇をおそれる
余談ですが、『なぜ、蛇はなめくじを恐れるのか?』という逸話の由来について。
実は、元になっている中国の故事ではナメクジにあたるものがもともとはムカデであったようで、いつからか日本語に翻訳した際に誤ってナメクジとしてしまったことが由来で、もともとの故事ではヘビもムカデの毒を怖れるだろう、としていたことが由来のようです。
「じゃんけん」の名前の由来は?
今現在、私たちが普通に呼んでいる「じゃんけん」という名称は、そもそもどういう由来でいつから名づけられたのでしょうか?
最近の研究(高橋浩徳 執筆論文『日本の拳遊戯(上(2013)、中(2014)、下(2015))』)によると、これまで「じゃんけん」に関する記述とされていた過去の文献の見直しにより、実際には江戸時代になるまでじゃんけんに関する記述がまるでないことが分かっています。
現在の「じゃんけん」とおなじルールを持ち、石、鋏(はさみ)、紙の3つの拳を用いた”三すくみ拳”である「石拳」の記述が、明治になってからようやく書物に登場してきたとされており、明治26年(1893)に雑誌 風俗画報(第60号)に以下の記述があります。
石拳は石と紙と鋏との三なり。…打ち出しは虫拳の如くシ、シ、シ、とも云ひ又ヨイ、ヨイ、ヨイ、とも三つ掛声するを法とす。…。さて石拳の一名をジャンケンと云ふは両拳をりやんけんといふより訛れりと説く人あれど恐らくは非なるべし。…案ずるにジャンは石の呉音なるジヤクの訛りたる者とすべし。
図.石拳(ジャクケン)とじゃんけんの対比イメージ
(※出典:Wikipedia)
これが『じゃんけん』として書物に登場した一番最初のものであるとされており、これによると、『じゃんけん』の名前の由来である”じゃん”は、石の呉音(ごおん・日本漢字音(音読み)の一つ)である”ジャク”が訛ったものである、と解釈しています。
じゃんけんに関する記述がこれより古いものがないため、じゃんけんの名前の由来は、
「石拳(じゃくけん)」が訛って「じゃんけん」となったものがその由来である、いう説が有力とされています。
しかしながら、異なる見解もあります。
弘化四( 1847)年に芝居の中で演じられた『とてつる拳』という拳遊びが、三味線をじゃかじゃかかき鳴らしながら踊りに合わせて拳を打つところがあり、その三味線の”はやし”の部分である「じゃんじゃかじゃかじゃじゃんけんな」が大衆にとってインパクトがあり残ったため、この曲を“じゃんじゃか節”と呼んだことから、それが『じゃんけんな』を経て『じゃんけん』の呼び名として残った、という説です。
ちなみに、『方言と土俗』第一巻第三号(昭和四年)の『全国ヂャンケン称呼集』で「ヂャンケン、ヂャンケンホイ、ヂャンケンポー、ヂャンケンボー、ヂャンケンポイ」や、「アイショウケン ヤンヤンノヤン」など様々な呼び方があったことを上げています。
これは、じゃんけんとしては手の形が”グー”(石)か”チョキ”(鋏)か”パー”(紙)であればよく、名称や掛け声はどうでも良かった、ということを結果的に表しているのでしょう。
そしてそれは、現代におけるじゃんけんの名称や掛け声の多様さを見ても読み取れます。
以上のことから、現在まで残っている『じゃんけん』という呼び名は、「石拳」が訛って「じゃんけん」となった説と、じゃんじゃか節の「じゃんけんな」が変じて「じゃんけん」となった説が有力ではあると考えられますが、どれも確たる証拠となる文献は存在しておらず、
結論としては、
「じゃんけん」という名称はもともと統一されたものはなかった
といってよいのではないでしょうか。
現在言われている説は、研究者ごとの見解の一つという状況のように見受けられます。
じゃんけん以前の拳遊び
じゃんけんに代表される「拳遊び」ですが、過去にはじゃんけんの発生以前から「拳遊び」が存在していましたが、その代表的なものが「すくみ拳」と、「当て物拳」というものでした。
じゃんけんの始まりを考えるに当たり、過去の「拳遊び」の存在は非常に重要な要素であるため、簡単にではありますが、それぞれについて説明していきます。
三すくみ拳「虫拳」
じゃんけんのような拳遊びは、これまで多数の種類があったようです。
その中でも、じゃんけんより古くから存在している拳遊びの代表例として、虫拳があります。
これも「三すくみ拳」の種類の一つにあたる拳遊びですが、「三すくみ」の語源となった故事にちなんで、蛙、蛞蝓(なめくじ)、蛇で、じゃんけんにおける”グー”、”チョキ”、”パー”を表現し、
- 親指は「蛙(かえる)」→蛙はなめくじに勝つ
- 小指は「蛞蝓(なめくじ)」→なめくじは蛇に勝つ
- 人さし指は「蛇(へび)」→蛇は蛙に勝つ
というように、じゃんけん同様の勝敗ルールで遊ぶものです。
図.「虫拳」の手の形
虫拳の歴史はいつからなのか、Wikipedia等では『平安時代から続く日本の拳遊びで一番古いもの』と言われていたり、奈良時代からであるなどの諸説あります。
しかし、前述の高橋氏の論文によると、虫拳の登場はそこまで古くはなく、江戸時代以降だといわれており、平賀源内(1728生~1780没)がペンネーム『風来山人(ふうらいさんじん)』で書いた著書『根無草』で初めて虫拳のことを記述していることを指摘しています。
そこでは、『~拳の変化、蛇は蛞蝓(なめくじ)にまけ・・・』といった表記で登場しており、『根無草』より過去の資料では虫拳に該当する記述がないことから、江戸時代以降に虫拳が登場したものといわれています。
※これまで歴史・資料について言われていた、”平安時代説”や、”奈良時代説”の根拠となった文献解釈については、高橋氏の論文『日本の拳遊戯』にて根拠の薄さ・誤りを指摘されています。
当て物拳「本拳」
代表的な拳遊びの種類のうち、もう一つの例として「本拳(ほんけん)」があります。
本拳とは中国伝来の二人で遊ぶ拳遊びです。そのルールは、以下のようなもので、互いに出す数の合計を当てるというもので、「当て物拳」と呼ばれていました。
- お互い指で0から5までの数を作り同時に出す
- お互いの出した指の合計数を同時に発声する
- 合計数が当たっていたほうの勝ち
- 両者当たった場合やどちらも外れた場合は引き分け
- 一定回数(左手で勝ち数を記録する)、先に勝利したものが勝ち
この本拳は、出す指の本数次第で、手の出し方が”グー”、”チョキ”、”パー”に似た形になるため、本拳の手の形がじゃんけんの手の形の元になったのではないか?ともいわれています。
- 0 → グー
- 2 → チョキ
- 5 → パー
じゃんけんはいつから始まったか
「じゃんけん」は、一体いつから始まったのか?という疑問に対して直感的なイメージは、他の古い文化のように中国由来の遊びという印象があります。
インターネット上の情報を見てみると、じゃんけんの発祥・起源について中国が起源であるという説が散見されますが、本当にそうなのでしょうか?
じゃんけんの始まりは中国が起源?
じゃんけんの始まりは「中国」であるという意見について確認してみます。
その例として、とある語源解説サイトにある記述を紹介します。
【じゃんけんの語源・由来】
じゃんけんは近世に入って中国から入った拳遊び(けんあそび)の一種で、当時は酒席で行われることが多かった。
じゃんけんとは、「石、鋏(はさみ)、紙」の3手を用いた「三すくみ拳」です。
しかし、中国では、近世までじゃんけんに該当する石、鋏、紙(布)を用いた三すくみ拳は存在しておらず、ここで言われている「近世に入って中国から入った拳遊び」というものに、じゃんけんに相当する「三すくみ拳」は存在しません。
中国清代(1644~1912年)の『酒令叢鈔』という書物で、すくみ拳についてはじめて登場するようですが、それが日本に伝わっていたことを示す物は何も見つかっておらず、すくみ拳について江戸時代中期の18世紀中頃まで存在すら確認できていないという状況とのことです。
以上のことから、中国から「石拳」(じゃんけん)が入ってきたという説は根拠がないといわざるを得ません。
じゃんけんの始まりについての結論
文献『拳会角力図会』(義浪・吾雀、文化六(1809)年)の交拳の項で、『交拳は本拳と虫拳を交互に打つこと』と説明されています。
つまり、先立って紹介した『虫拳』と『本拳』を交互に行うことで難易度を上げた、『交拳(まぜけん)』という拳遊びがあったと説明しています。
このように、関連性が高かった『本拳』と『虫拳』には、じゃんけんの特色である数字を模したともいえるグーチョキパーの手の形、三すくみの勝敗ルールがあり、それが変化した結果、本拳の分かりやすい手の形と虫拳の三すくみによる分かりやすい勝敗法が混ざった石拳となり、いまのじゃんけんの原型ができたのではないか?とも考えられています。
そして、『石拳』が日本の歴史に登場するのは、江戸後期から明治にかけてであるということから、ヨーロッパの代表的な日本学者であるセップ・リンハルト(ウィーン大学教授)が、その著書『拳の文化史』で、じゃんけんは一体”いつから始まったか?ということの結論として、
『現在の「じゃんけん」は江戸時代から明治時代にかけての日本で成立した』
と述べています。以上のことから、
じゃんけんの発祥地は日本であり、いつから始まったかという点については江戸時代以降である
といってよいでしょう。
まとめ
本記事では、じゃんけんはいつから始まったのか?という疑問を起点に、名前の由来やその他の拳遊びについて調査し、紹介しました。
実際としては、まだまだ不明なことが多く、今後の調査・研究を待たれる部分がありますが、現時点で分かっていること、または可能性として考えられていることとして、以下のようにまとめました。
- じゃんけんのような拳遊びはじゃんけんより古くからある
- 拳遊びの代表的なものは「虫拳」と「本拳」がある
- 「虫拳」と「本拳」が混ざってじゃんけんになった可能性がある
- じゃんけんの名前の由来は「石拳(ジャクケン)」が訛って「じゃんけん」になった説と「じゃんじゃか節」の「じゃんけんな」が訛った説がありどちらも有力である
- じゃんけんの始まりは日本であり江戸後期から明治にかけてである
『じゃんけん』についてその由来や歴史は、まだまだ研究の余地の有る課題であり、非常に奥深く興味深い内容であったことに率直に驚きがありましたが、如何でしたか?
なお、本記事をまとめるに際して、本文中に紹介させていただいた高橋浩徳氏の執筆論文『日本の拳遊戯(上(2013)、中(2014)、下(2015))』を参考にさせて頂きました。
本記事を最後までお読み頂き、有難うございました。
コメント
前から疑問に思っていました、
世界のどの地域で始まって
どの程度の地域までこの遊び(?)が普及しているのかなど
疑問もあるようですが大変参考になりました、
有難うございます。
名古屋ではインチャン❕